調停委員を経験して(同席調停について)

[弁護士 吉田恒俊]

調停委員30年
 私は今春、定年によって約30年間務めてきた調停委員を退任しました。そこでいつも思っていた同席調停についてお話しします。調停には主に家事調停と民事調停があり、前者は家裁で、後者は簡裁で担当しております。いずれの調停も、基本的に申立人と相手方を交互に調停室に呼んで、調停委員が話を聞く別席調停方式が採られています。これだと調停委員の方は楽ですが、当事者としては相手方の顔も見ないまま期日が終わり、不満が残ることがあります。調停委員から聞く話がそれまでの経過とあまりに違うので、相手側として本当に相手方はこんな主張をしているのかとの疑問が湧いてくることもあります。DVのように夫が暴力を振るうことが離婚理由となっているような場合でも、妻側が誇張して言っていることがあっても、直接違うと言えないもどかしさがあります。

同席調停の勧め
 別席調停への不満は、私が調停委員としてというより、当事者代理人として調停に臨んだ場合に常に思うことです。だから、私は調停委員として調停を行う場合はできるだけ両当事者に同席してもらうように心がけてきました。本来、当事者は自分の紛争ですから自分が解決すべきであって、調停はそれを手助けするに過ぎません。調停委員に任せておけば何とかなるというような甘えた気持ちでは、主体的な解決はできず、後で悔いが残ることになるでしょう。

若妻の浮気
 同席調停について、私の経験を一つ挙げておきます。それは、離婚事件で夫の代理人として、浮気をした新婚1年目くらいの若妻を相手方に申し立てたケースでした。妻は浮気がばれたと思ったら家を飛び出して、実家に戻り、妻の両親も娘をかばって話し合いに応じませんでした。浮気の証拠は携帯電話のメールでした(携帯電話で浮気が見つかることが多いですね。気を付けましょう。)。しかし、その携帯電話は妻が持ち出しているから、証拠がなく、妻は浮気を認めようとしませんでした。ところがこのケースでは、偶々、妻のケータイが夫名義だったので、夫は携帯会社が保存していた過去1ヶ月分の送受信メールの内容を取り寄せることができたので、浮気の証拠を突きつけることができました。

同席を拒否した若妻
 グーの根も言えなくなった妻は卑怯にも頑なに同席を拒否しました。裁判所も妻の意向だと言って同席を認めてくれませんでした。結局、妻は最後まで進んで釈明するとか、謝罪をするなど自ら問題を解決をしようとしませんでした。夫はお金が欲しいわけではなく、妻の浮気の理由が知りたいことと、一言でもお詫びの言葉がほしかったのですが、調停委員はその気持ちを酌んでくれませんでした。
 夫の申し立てたとおりに離婚は成立しましたが、これでは人間関係の回復は絶望であるばかりか、夫から宥恕を受けなかったその女性にとっても一生涯負い目をもって人生を送ることになるでしょう。
 調停委員には、妻側を説得して、離婚という事態を招いたことに対し、真摯に夫に対するお詫びの気持ちを直接表わすべく尽力してほしかったと思います。

妻の自殺(別件)
 以前に「調停時報」という機関誌に載った話しですが、未解放部落の女性が嫁ぎ先の両親から追い出されて、夫婦関係調整の調停を申し立てたケースがあります。妻は、夫を信頼しており、調停の場で直接夫と話がしたいと懇願しました。しかし、両親の意向を受けた男性の調停委員は夫が会いたがらないと言って妻の願いを拒否したのです。妻は、結婚の際、夫から駆け落ちをしてでも妻を守ると約束してくれたから、直接夫の本心を聞きたいと引きませんでした。結局最後まで夫に会わせて貰えないまま調停が打ち切られたため、妻は落胆して自殺してしまいました。この奥さんの心情を思うとせめて会わせてやればよかったと涙を禁じ得ません。

・アメリカのADR アメリカでは裁判所の主宰する日本のような調停制度はありませんが、民間のADR(裁判外紛争解決手続)が盛んに行われており、大抵同席で行われます。離婚事件も同様です。委員も1人ということが普通です。我が国でも、平成16年、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(ADR基本法)」が成立しました。
 現状は、訴訟以外の紛争解決という点では、まだまだ裁判所の調停による解決が圧倒的に多いのですが、今後は当事者が主体となってADRを利用することが増えることでしょう。そこでは、大抵同席で話し合いが進められることになるに違いありません。

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