ちょっと一服「一本刀土俵入り」

[弁護士 山﨑靖子]

 堅いテーマが続いたので、ちょっと一服。「一本刀土俵入り」長谷川伸の股旅物です。
 昭和6年の作品なので知らない方も多いと思いますので、簡単なあらすじを紹介します。
 ・・・破門された下っ端相撲取りだった茂兵衛は、行き倒れ寸前のところを酌婦のお蔦に親切にしてもらったことから、横綱になって土俵入りをお蔦姐さんにみてもらうことを決意しました。さて10年後、お蔦さんは娘と一緒に細々と暮らしていました。そこへお蔦さんの夫辰三郎が戻ってきました。辰三郎は何年も前から行方不明だったのですが、今はいかさま賭博をして追われる身。茂兵衛はお蔦一家を守るために辰三郎を追ってきたやくざ者たちをたたきつぶし、逃がします。そこで有名な「十年前、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見をもらった姐さんにせめて見てもらう駒形のしがねえ姿の土俵入りでござんす」というセリフがあって、姐さんは感謝しながら故郷へ旅立つ・・・。

 出てくる人物全員がだめだめちゃんです。主人公の茂兵衛は横綱どころか渡世人にしかなれなかったし、お蔦さんの夫は一攫千金をねらったいかさま賭博をして、ばれてやくざに追われているし、辰三郎を追ってきたやくざ者は茂兵衛にたたきつぶされるし、お蔦さんはだめ男に惚れてるし…(娘のお君ちゃんの将来を真剣に心配しました)。

 人生こんなもの、ということでしょう。原作者の長谷川伸は小学校を中退して職を転々とした苦労人のようです。普通、「櫛、簪、巾着ぐるみ、意見をもらった」なら、精進して幕内力士くらいにはなって姐さんに晴れ姿を見てもらう、という流れになりそうですが、そううまくいかないところが現実的ですね。

 それと、この話のもう一つのテーマは、「純愛」。最近の若い人は世界の中心で愛を叫んでも恥ずかしい行為ではないと思っているようですが、昭和の日本人はそういうことはしません。お蔦さんへの想いを隠して一家を見送る…これが昭和の純愛の形です。
 ということで、前方斜め上ばかり見ることに疲れた人にお勧めします。気楽に行きましょう。

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