奈良学園大学整理解雇事件      1審勝訴判決の報告

[弁護士 佐藤 真理]   
                   
1 7月21日、奈良学園大学事件で画期的な原告勝訴判決が奈良地方裁判所(島岡大雄裁判長)から言い渡され、テレビ・新聞で報道されました。

 少子化などを理由とする大学再編・学部閉鎖を口実に、奈良学園大学の教授ら7名を2017年3月末に整理解雇・雇止めした事件に関し、奈良地裁は、教授ら7名のうち5名に対する解雇が違法・無効であるとして、奈良学園に対して、地位確認とともに、未払賃金・賞与として総額1億2000万余円を支払うよう命じました。

 なお、65歳定年後再雇用中の2名については、70歳までの雇用継続の期待に合理的理由があると認めつつも、無期労働契約の労働者と比べて、雇止めによる経済的打撃は大きいとは言い難く、有期労働契約の労働者を優先的に雇止めすることには合理性があるとして、雇止めを有効とされたのは残念です。

2 事件の経過
 奈良学園は、1984年に奈良産業大学を開校し、2014年に奈良学園大学と改称。2012年、ビジネス学部・情報学部を現代社会学部に改組し、新たに人間教育学部、保健医療学部を新設する「再編」を計画しました。現代社会学部の認可が下りない場合は、ビジネス学部・情報学部は存続させるとの教授会の付帯決議がなされていましたが、奈良学園は、2013年に現代社会学部の申請を取り下げながら、付帯決議を撤回させ、2014年4月からビジネス学部・情報学部の学生募集を停止した上、両学部の教員約40名が「過員」になったとして、2017年3月末までに「転退職」するように迫ったのです。

 これに反対した大学教員らが、2014年2月に関西私大教連傘下の教職員組合を結成し、その後、組合員を増やして奈労連一般労組にも加入して、団体交渉等の活動を続けました。奈良学園は、解雇回避の努力を尽くさず、転退職に応じなかった約40名の教員に対し、2017年3月末、解雇・雇止めを強行したため、組合員8名が、原告となって本裁判を提起したのです。

3 争点と本判決の意義
 最大の争点は、少子化を理由とする学部の統廃合の際に、学校法人は、廃止される学部(ビジネス学部・情報学部)に所属する大学教員を解雇することが許されるのか否かということでした。

 奈良学園は、大学教員は、学部、職種とも限定されており、配置転換の義務はなく、整理解雇法理は適用されないと主張しましたが、本判決は「本件解雇は、被告の経営上の理由による人員削減のために行われた整理解雇に他ならない」として、学部閉鎖を理由とする解雇・雇止めにも、整理解雇法理を適用しました。

 整理解雇法理とは、整理解雇の4要件、即ち、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④説明協議義務、のいずれかを満たさない解雇は労働契約法16条に違反し、解雇権の濫用に当たり無効とする法原則です。

判決は、①人員削減の必要性について、ビジネス学部・情報学部の学生募集停止により大学教員が「過員」状態になったといえるとしましたが、奈良学園は646億円もの純資産を有している上、社会科学系の第3の学部の設置検討をすすめ、これを合理的な理由なく凍結し、整理解雇・雇止めの意思表示後に第3の学部の設置検討を再開していることを指摘し、これらの対応は大学教員削減の必要性を強調することと整合せず、法人は、原告らを「解雇しなければ経営破綻するなどの逼迫した財政状態ではなく、人員削減の必要性が高かったということはできない」と判示しました。

 ②解雇回避努力については、希望退職の募集、事務職員への配置転換希望の募集などの奈良学園の対応を認定しましたが、「原告らは、大学教員であり、高度の専門性を有する者であるから、教育基本法9条2項の規定に照らしても、基本的に大学教員としての地位の保障を受けることができると考えられる」とし、奈良学園が、「原告らを人間教育学部又は保健医療学部に異動させることができるかどうかを検討する前提となる文部科学省によるAC教員審査を受けさせる努力をした形跡は認められない」とし、「解雇回避努力が尽くされたものと評価することは困難である」と判示しました。

 ③人選の合理性についても、選考基準が制定されてはいるものの、当該選考基準を運用する前提となるAC教員審査を受ける機会を付与していないから、当該選考基準を公正に適用したものとはいえないと判示しました。

 ④手続の相当性についても、奈良県労働委員会において、2016年7月に組合と法人が受諾したあっせん案(「労使双方は、今後の団体交渉において、組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する。」)を踏まえた「組合との協議が尽くされたと言い得るかは疑問が残る」と判示しました。

4 労働委員会の不当決定を乗り越える。
 私は、自交総連の小林明吉議長(故人)と二人三脚で、奈良県及び三重県の労働事件を多数取り扱ってきましたが、労働者・労働組合の救済機関である労働委員会を活用するのが、常套手段でした。奈良県労働委員会で取扱う不当労働行為救済申立事件の7割以上を担当し、次々と勝利命令を勝ち取り、これをベースに裁判でも勝利解決を図るという時期が長く続きました。

 今回の奈良学園事件でも、組合は、裁判と併行して、奈良県労働委員会に不当労働行為救済申立てを行いました。大学教員の中で年齢の若い3名の原職復帰を柱とする和解案が労働委員会から提示された経過もあり、全面勝利の救済命令は確実と判断していたところ、不誠実団交が認められただけで、不利益取り扱い及び支配介入の不当労働行為が棄却されるという想定外の不当決定を受けたため(2019年1月)、心機一転、これを乗り越えるために、弁護団と原告団は総力を結集して主張立証を重ねてきたのです。

 大学教員に対し、希望退職や事務職員ないし中学・高校教員への配置転換募集等を提案するだけでは、大学教員の雇用継続とはならず、「解雇回避努力としては不十分」と判示した本判決は、大学教員としての雇用確保努力を尽くすことを求めたものと高く評価できます。久しぶりに明快な労働勝利判決を得られたものと嬉しく思っています。

5 奈良学園は控訴し、原告側も雇止めの無効が認められなかった二人が控訴し、大阪高裁に舞台が移ることになりました。全面勝利を目指して、引き続き奮闘していく決意です。
 弁護団は、大阪の豊川義明・鎌田幸夫・中西基・西田陽子弁護士と私の5人が担当しました。