[ 弁護士 吉 田 恒 俊 ]
・絶望の刑事裁判
かなり以前ですが、我が国の刑事裁判は絶望だと言った偉い刑法学者がいましたが、その状況はますます顕著になってきているように思います。体験した一例を報告します。
・執行猶予を付けない不当判決
300万円の横領事件です。前科は50年前の1犯だけで、以後前科前歴は全くなく、利益を得ている共犯者は不起訴となっており、40歳の娘が同居して被告人の更正を約束しており、本人も自分の家業に力を入れて生活を立て直す決意をしています。しかも、被害者と示談は出来なかったのですが、被害額に損害金を加えて380万円を供託したので、実損はすべてカバーされたと同様でした。これで執行猶予が付かないとすれば、付ける事件はなかろうと思われる事案でありました。
ところが、地裁でも高裁でも執行猶予がつかず、実刑でした。同種の他事件との比較から言っても執行猶予とされない理由がありません。理由としては、訴訟資料に現れていない事実(予断と言います)をもって判断したとしか考えられません。憲法の裁判を受ける権利及び法の下の平等に反するとしか言えない判決でした。
・密室での審理
さらに、強姦や強制わいせつ事件でもないのに、弁護人はいるけれども被告人は別室に隔離されて証人尋問がなされており、証言を聞くことも出来ませんでした。ビデオでの目視も許されなかったのです。これは刑事被告人の権利を保障した憲法37条に反するものであります。しかも、証人の姿は傍聴席からも遮蔽されて見えなくされていました。これは裁判は公開の法廷で行うという憲法82条に反する事態です。私が担当したのではありませんが、法廷で実際に目撃した事実です。
まさに密室での審理が白昼堂々と我が国憲法の下で行われているのです。
(2016/3/31)