§米英仏軍のシリア攻撃の危険性

[ 弁護士 吉田 恒俊]

シリアの首都ダマスカス近郊での化学兵器使用疑惑を巡り、化学兵器禁止機関(OPCW)は4月10日、調査団を近く現地に派遣すると発表した。シリアと後ろ盾のロシアも派遣を要請しており、シリア外務省は調査団を「歓迎」し、「調査団に対して全ての必要な支援を提供する」と強調したと報道されている。

しかるに、米英仏軍は、その調査結果を待たないで、その数日後の14日、ダマスカス近郊の化学兵器関連施設3箇所をミサイル攻撃した。105発を発射し、その内14発は迎撃されたという。1回限りの非人道的兵器に対する破壊であり、戦争と言えないとの抗弁は成り立たない。明白な他国侵害であり、戦争とも言える事態である。

アメリカは事前にロシアと落としどころも含めて暗黙の了解を得た可能性はあるが、大戦争に至る危険な行動であると言わねばならない。ロシアが、シリアに対する攻撃はロシアに対する死活的に危険な攻撃と考えれば、国連憲章で認められている集団的自衛権の行使として、米英仏本土又は艦船に対する攻撃が国際法的には可能と考えられるからである。
集団的自衛権の行使は、かならずしもあらかじめ条約や協定によって約束されている場合にだけ許されるわけではない。条約上の根拠がなくてもこの権利を行使することが認められるとされている。
従って、ロシアとシリアの密接な防衛・軍事関係からすれば、両国の間にそのような条約がなくても、ロシアによる集団的自衛権の行使が可能であり、現実性を持っている。今後のロシアの出方に目を離せない。

さらに、今回のダマスカス攻撃は、シリアの化学兵器生産工場を破壊するものであり、その証拠を隠滅するものとも言える。OPCWの今後の調査は非常な困難を伴うこととなろう。ここにも、ロシアの暗黙の了解を推測させるものがあるが、だからといって今回のシリア攻撃が大戦争の危機をはらむものであるという評価は変わらない。核戦争が起これば人類は破滅に近い損害を受けることを忘れてはならない。          (2018年4月16日、記す)