事務所法律講座(相続と遺言)のご報告(第3回)

[弁護士 吉田 恒俊]

最終回です。最後までのご高覧誠に有難うございました。

5 課税との戦いで解決した事例
2015年1月以降、相続税の非課税の枠が「5000万円+法定相続人の数×1000万円」から、「3000万円+法定相続人の数×600万円」となり、最高税率も50%から55%になり、大幅に増額されました。節税対策はますます重要になっています。

下記事例は、不当な更正処分を跳ね返した事例です。なかなか大変でした。⑧の事例では、国を相手に不当課税だとして、国家賠償訴訟まで起こしました。高裁で納税者が勝利しました。真っ青になった国(税務当局)は最高裁に救いを求めて、何とか面目を保つというところまで追い込みました。⑦、⑧事件とも弁護士冥利に尽きる戦いであり勝利でした。

(1) 解決事例⑦ 私は、公認会計士と一緒に、被相続人生前中から相続対策を行った。主なものは①養子縁組と不動産の購入とその資金の借り入れであった。しかし、これらを実行した時点で、被相続人の様態が急変して意思能力を欠いていた。そのため、負債が認められず、莫大な税金が課せられた。 私は、異議申立を経て、不服審判を申し立てて、仮に借り入れ当時意思能力を欠いていても、それ以前から相続対策についての委任を受けていたのであるから問題はない、として強く争った。その結果、採決ではこちらの言い分が全面的に認められて、課税額は大幅に減少した。実益は約15億円であった。

(2) 解決事例⑧ 紙器製造業者が政務調査に非協力的であったとして、反面調査で売上額調べ上げ、それから申告にかかる経費を差し引いて利益を推計したので、税額は申告の20倍にも及ぶものとなった。私は、経費も反面調査すべきであること実額課税が原則であることなど、更正処分の不当性を突いて、税務訴訟を提起し、大部分を取消させた。
以上

事務所法律講座(相続と遺言)のご報告 ( 第2回)

[弁護士 吉田 恒俊]

前回の続きです。

3 遺言をした上で解決した事例
子ども達が仲良く遺産を分割することが、亡き親として何より嬉しいことでしょう。

(1) 解決事例③ 98歳でなくなった医師は、生前は奥さん亡き後20年以上も2人の女性に世話をして貰っていた。羨ましい御仁であった。子供は7人。彼は公正証書を作り、2人の女性に少しと、大部分の遺産を子らに公平に分ける、という内容的には平凡なものであった。但し、分け方はすべて遺言執行者である私に任せるというものであった。
財産は、預金、株式、ゴルフ会員権、不動産など沢山あったので、毎週土曜日に全相続人に長男さんの家に集まって貰い、皆さんの意見を聞きながら、具体的な分け方を検討して、分割案を練り上げていった。欲張りなことを言う人が一人でもいたら、私が遺言に基づいて強制的に分けますと、念を押したので、7,8回の集まりの最後まで円満に分割が終わった。

(2) 解決事例④ 会社の会長さんで、亡くなる半年ぐらい前に私が病院のベッドに見舞いに行ったときに、自筆証書遺言を作った。すべてを長男である社長に相続させるというものであった。会長の子どもには長男、長女、二女及びお妾さんに子が一人いた。自筆証書であっても法的効力は公正証書と何ら変わらない。この遺言のお陰でもめることはなく、他の相続人には遺留分として金銭で解決した。

4 相続人がいない解決事例
近しい人でも相続関係にない場合があります。その方には法定相続人がおらず、多額の財産を残してなくなった場合、遺産は宙に浮きます。そんな場合、近しく付き合っていたり、面倒を見ていた人は、特別縁故者として遺産の一部を取得できる場合があります。

(1) 解決事例⑤ 叔父さんがなくなり、その妻Aがいるが相続人はいない。義理の甥に当たる依頼者は、Aさんの療養看護を10年以上続けてきた。Aさんはかなりの財産を残してなくなったので、私は家裁に相続財産管理人の選任を求め、次いで依頼者を特別縁故者として遺産の分与を求めた。全財産の分与が認められた。

(2) 解決事例⑥ 私が相続財産管理人として関与した事例で、姪が亡くなり叔母2人が葬式など最後の面倒を見ただけというのがあった。1億円以上の遺産があったが、特別縁故で一人300万円が認められ、残りは国庫に入った。生計を同じくせず、療養看護もしていない場合としてはこんなものであろう。

☆次回は、「5 課税との戦いで解決した事例」の中から、2例を報告します。ご期待下さい。

事務所法律講座(相続と遺言)のご報告 ( 第1回)

[弁護士 吉田 恒俊]

1 はじめに
去る2月18日に、事務所主催で市民向け法律講座を開きました。私が「相続と遺言」のテーマで講師を務めました。参加は約10人で宣伝不足だったと思います。でも、皆さん熱心にお聞き下さいました。

自分の財産を思い通りにつかいたいという当たり前のことが、認知症や痴呆はなくても身体が弱ってできなくなることがあります。死後は当然何もできません。それをサポートするのが成年後見制度であり、遺言制度です。
体と頭が動けなくなってから後悔しないために、制度の利用をお勧めします。子どもや知人がいる人も含めてよく考える時代環境にあると思います。
相続税を節税するということも大切で、私は税理士と組んで対応しています。法律家の目から見た節税対策という視点が重要だと考えております。

以下、今回を含め3回に分けて、講演を基にして私の解決事例をご報告いたします。

2 遺言のない場合の解決事例
親としての最大の不幸は遺産を巡って子どもらが喧嘩することではないでしょうか。草葉の陰から後悔しても始まりません。

(1) 解決事例① 農家で長女が後を継いでいたが、次女も近くに住んで、農地の一部を耕作していた。父母が亡くなって相続が始まると、次女は2分の1の法定相続分を要求した。大部分を相続しようと思っていた長女は怒り心頭に発して、遺産分割解決後も不仲になってしまった。私は、長女の代理人として、寄与分を大きく主張してかなり次女に譲歩させた。

(2) 解決事例② 自宅で父と食品製造の家業を一緒にやってきた長男には、長男名義の不動産はなかった。調停で妹と弟が唯一の遺産である実家を売却してでも分けよと言う。長男にはお金を払うだけの資力はない。こんな場合、できるだけ時間をかけて、裁判所の流れに任せて、安易に自宅を売却することはしない。妹らが諦めるのを根気よく待つ作戦をとる。成功の確率は高い。

☆次回は、「3 遺言をした上で解決した事例」及び「4 相続人がいない解決事例」、次々回は、「5 課税との戦いで解決した事例」の中から、各2例ずつを報告します。ご期待下さい。